10月1日のことになりますが、「郡上森林マネジメント協議会」の樋口氏に依頼して『生産性向上実現研修』を開催しました。
10月というのは、林業を生業にする者としては、時間が惜しい季節でもあります。
台風だったり、その先の雪だったり。
はたまた色々と工期が迫って、少しでも現場を進めたい時期です。
といった事情はありますが、当日は現場を早めに切り上げて貰い、山林部全員に研修を受講してもらいました。
この研修を依頼することになったのは、昨年の事になるのですが、「緑の雇用安全指導」で現場に樋口さんに来て頂いた際に、色々と山の話・木の話を聞かせて頂いて、実は知らない事が沢山あることを改めて知ったのです。
「井の中の蛙大海を知らず」は大袈裟ですが、本当に『知らない』のです。
もちろん、目の前の仕事については熟知して作業は進めますが、一歩違う畑を見ると知らない世界が広がっていました。
樋口さんは県森連の共販所で指揮を振っていらっしゃいましたので、知識・経験が豊富で県内の山を熟知されています。
我々のように郡上近辺に張り付いて仕事をしていると、どうしても視野が狭くなってしまいます。
その様なタイミングで「樋口さん、勿体ないから全員にその話をして欲しいです。」とご依頼しました。
樋口さんの方も「林業技術者には、もっと山の事・木の事、私が伝えられることはどんどん伝えていきたい」という思いもお持ちでこの研修を企画する運びとなりました。
(岐阜県からは、研修という事で補助金を頂いて開催していることは記しておきます)
2時間の座学の内容をすべて記載する訳にはいきませんので、掻い摘んで重要なポイントを私なりにご紹介します。
『生産性向上』
これ、誰のためにですか?
これ、何のためにですか?
素材生産現場でよく使われる指標として、「m3/人工」として表現されます。
つまり、一人一日何m3を生産(搬出)したかです。当然一人では仕事の効率が上がりませんので、チーム(班)での出来高となります。
利用間伐で、7~8m3/人工といった使われ方をします。
これはよく言われる事なのですが、「一つとして同じ山は無い」のに、単一の指標として比較してしまう事には、意味があるのか?と。
木の太さ・長さも違えば、成立本数も違う、地形も違う、同一条件下でない者同士を比較して「お前のところは生産性が低いから、〇〇なんや」などと理不尽な比較をされてしまうわけです。
生産性向上は、目標ではなく『手段』なのです。
どこでどう間違えたか、『目標』となってしまっています。
生産量を追い求めても、利益が上がらなければ事業を行っている者として意味がありません。
では、生産性を向上させた結果、「これだけ効率よく仕事できるなら、単価を安く依頼しても出来るよね?」と間違った方向へ進んでしまっては意味がありません。
「努力した結果が、自分たちの利益を減らす」という事がまかり通っているのが現状ではないでしょうか。
ただでさえ3Kといわれ、一歩間違えれば死にも直面する仕事です。
生活していかねばなりませんから、収入が減ってはいくら希望があっても続けていくことはできません。
努力して生産性が向上した成果は、努力した者に支払われるべきなのです。
すみません、ちょっと本題とずれてしまいました。
『生産性向上』は、3者が適正な利益を上げることが目標です。(樋口氏)
つまり、森林所有者(売る者)・請負業者(買う者)・森林技術者(仕事をする者)の3者です。
森林所有者にも適正に木材販売代金をお返しし、会社も事業継続のために利益を確保し、森林技術者に技術料を払う。
一か所が過大に搾取してしまうと、この関係はもろく崩れてしまいます。信用信頼関係です。
長く長く続く良好な信頼関係が必要です。
「生産性を上げる一番簡単な方法は、最新の機械を導入すること」です。
生産量を上げることに主眼を置くのなら、資本力のある会社が最新の機械を導入して、どんどん山の木を伐れば一発で生産量は上がるでしょう。
それでいいの?
目標はそこじゃないよね?
必要以上に伐れば、資産は減少。
荒い作業をすれば山を荒して終わり。
残った立木を傷つけてしまえば、将来価値の減少。
適切な仕事をしなければ、山の機能は失うし、広い視野でみると森林価値は下がっていきます。
どんどん伐って禿山にして、将来世代に資産を残さない、今だけを見る作業(あえて作業)を許容するのか?
どんどん燃やして、電気を作り続けるの?
根は深いのですが・・・。
また脱線してしまいました。
『生産性の向上』の目的は、利益を上げる事。
では、限られた資源から利益を上げるには、係るコストを下げつつ、一本当たりの売価を上げなければなりません。
これには『情報』が鍵となります。
どんな木が、どこに高く売れるか。
山を倉庫に例える方もいらっしゃいますね。
これは誰もが考えつくところ。
どんな木が売れるか。
どんな木を、どこの誰が欲しがっているか。
この部分は、弊社が弱いところ。
弊社だけじゃなく、他の事業体も同じ悩みをお持ちかもしれません。
「木の家に住んでなかった子が、林業に就く」と想像してみてください。
本当の意味で、木を知らない。のです。(私も偉そうには言えませんが)
たとえば、曲がり材。
ちょっと特殊な曲がり材。「曲がっているからパルプだね」と簡単に切ってしまうのか。
『社寺の隅木』として売り先がある事を知っているか。
たとえば、広葉樹。
「広葉樹は、パルプね」「バイオマスね」と、2mで伐ってしまうのか。
『クリ・サクラ、有用広葉樹は、ヒノキよりも高い』事を知って市場に出すのか。
(弊社で最近広葉樹の手当てが出来ないのは、こういう背景もあるんじゃないかと思っています。)
と言った具体的な事例を交えて講義してくださいました。
「1本を最大限の価値で売る」という原則に則れば、元の直材はA材で市場、次のB材が合板で、細いとこはパルプのC材。末木枝条はバイオマスでD材。と棲み分けるのが理想。幸いにも、合板工場ができ、バイオマス発電所も買い取ってくれるので、無駄なく売れる環境ではあります。
しかし、一歩間違えると、AがBに、BがCに、CがDにと、安く量が必要なところへ流れて行ってしまいます。
現にそういった事例もあることでしょう。
これでは、上で書いたように「生産性の向上は利益のための手段」に反する事になってしまいます。
市場の影響で、「どうしても売り先が無い」という事は出てくるのが現実。
しかし、最初から利益の最大化を目指さない方策は現に慎むべきではないでしょうか。
おっと、随分長くなってしまいました。
当日の研修は、16時から18時までみっちりと行いまして、終わるころには外は真っ暗でした。
目の前の仕事を優先したい気も分かりますが、覚悟を決めての将来の投資です。
樋口さん、遅くまでありがとうございました。
引き続き、現場指導等、宜しくお願いいたします。
-------------- 白鳥林工(協業)の情報は、こちら -------------------
HP:http://www.shirotori-rinko.or.jp/
Blog:http://shirotori-rinko.seesaa.net/
Facebook:https://www.facebook.com/shirotori.rinko/
Twitter:https://twitter.com/Shirotori_rinko
Instagram:https://www.instagram.com/shirotori.rinko/
この記事へのコメント